
2022.06.22
ナイスな本 02|WATER TOWERS(給水塔)
自宅近くに和田堀給水所という施設がある。なかなかレトロな建物で、調べてみると昭和9年の竣工(一号配水池)で、災害などの緊急時に水の供給を滞らせないための施設らしい。以前は敷地内が見学できたそうだがすでに建て替え工事が進んでおり、もう中に入ることはできない。

ベッヒャー夫妻の撮影した「給水塔」は水の供給に際して水圧を確保するための施設で、給水所とは基本的に役割が違うらしい。高さを必要とする構造が、結果的にヘンテコな形状になっているものも多い。単純に見ていて面白く、コレクター心を刺激するのもわかる気がする。
手元にあるのは MIT PRESSから出ていた英語版で、たしか神保町で1万円くらいで買った。ちなみにMIT PRESSのロゴは7本の線で「mitp」を表していてすごくいい。デザインしたのはミュリエル・クーパーで、MoMAの永久収蔵品になっている(ロゴがです)。


中身はひたすら1ページに1点ずつ、同じフォーマットが続く。純粋に対象にフォーカスすべく、全ての写真で空はフラットな調子(最小網点)で統一されている。曇りの日だけを選んで撮ったのだろうが、このあたりも徹底ぶりがすごい。風景の中の塔というより風景から塔を抜き出したように見える。

印刷はうっすらセピアがかった深みのあるトーンで、ルーペで見ると黒と茶のダブルトーンになっていた。こういうのはスクリーンではなかなか伝わらないのでは。
デザイン的には抑制されていて特に奇抜なものはないが、そもそも写真をベストな形で見せるのが目的なはずで、そういう意味では内容とそれに即した装丁ということで、だいぶ完成度の高い1冊だと思う。