
2022.04.17
ポール・ランドの仕事っぷり
スティーブ・ジョブズの自伝を読んでいたら、ネクスト(NeXT)のロゴをポール・ランドに発注するくだりがあって面白かった。
スティーブ・ジョブズがアップルを一度追い出されていることは有名な話で、その時に設立したのがネクスト。ロゴデザインは当代最高のデザイナーに発注したいと、当時すでに巨匠となっていたポール・ランドに白羽の矢を立てるも、IBMとの契約があったので断られる(当たり前である)。しかしこの程度で諦めないジョブズはIBMのCEOに直電。最終的には副社長に(おそらくかなり強引に)認めさせ、ポール・ランドに発注できる運びとなった。
ジョブズははじめランドに複数案出すことを要求したが、ランドは「私はそういうやり方をしない(1案しか出さない)」と拒否。拒否されつつも、ジョブズはその姿勢が気に入り、ランドの言う通りに進めることにした。おそらく自分の哲学を持つプロフェッショナルと仕事がしたかったんだろう。ちなみにデザイン料は10万ドル。当時(1986年)の為替レートは1ドル約168円。
ランドは2週間でロゴを製作し、ジョブズへはブックレットの形式で提案した。うちにあったポール・ランドの作品集を見てみると、そのブックレットも載っていた。他の仕事もブックレットで提案しているものがあり、それがランドのやり方だったようだ。小さくて読めないがおそらく思考のプロセスであったり、どうしてそのデザインになったのか、みたいなことがきっと書かれているんだと思う。1案しか出さないのは当然めんどくさいからではなく、1案をそれだけ深く追求するから、必然的に1つになる、ということなのだろう。
よほど実績があるか信頼された人でなければ実際は難しいやり方だとは思うが、理想的な仕事の進め方の1つではある。昔デザイン事務所で仕事をしていた時、1案というのは比較対象がないからそれが本当に良いのかどうかわからない。だから複数案出さなきゃいけないんだ、という話をされて、そうかそういうものかと思った。まあそれぞれのやり方がある、というだけのことであって、どちらが正しいということではない。自分に関して言うと、仮に誰かにロゴデザインをお願いされたとしても、1案しか出さないという勇気も自信も今のところないし、たぶんずっとない。